(注)不動産の売却益によって市区町村の国民健康保険料や介護保険料などが増加することのご説明は、Aの下の方のBをご覧ください。
A 不動産の売却益がある場合の確定申告
1.確定申告書の提出による所得税および復興特別所得税と住民税
(1)確定申告書の提出義務の概要
①日本にある大使館などに勤務している個人以外の給与収入がある個人で、不動産の売却益が20万円を超える場合は、確定申告書の提出が必要です。
②遺族年金、寡婦年金や障がい年金以外の老齢厚生年金や老齢基礎年金がある個人で、不動産の売却益が20万円を超える場合は、確定申告書の提出が必要です。
③その他の事項は、次の(2)確定申告書の提出義務の詳細以下をご覧になってください。
(2)確定申告書の提出義務の詳細
①不動産の売却益およびその不動産を売却した日の属する年分の他の課税対象となる所得の合計額(所得金額調整控除額がある場合には、その控除後の金額)から
②雑損控除、医療費控除、社会保険控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄付金控除、障がい者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除および基礎控除の合計額
を控除した残額に対する③所得税の合計額が、④配当控除額(確定申告書の第1表に記載される配当金がないときは、0円)を超えるときは、
下記の(2)の給与収入または公的年金があるために申告不要となる場合を除いて、2月16日または3月15日が土曜日または日曜日に該当しないときは、その不動産の売却した日の属する年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告書をその売却した個人の提出する日の住所地を所轄する税務署に提出しなければいけません。
③死亡した場合の提出期限
確定申告書を提出すべき個人が、その確定申告書を提出すべき日前にその確定申告書を提出しないで死亡した場合は、その死亡した日の翌日から起算して4か月以内にその死亡した個人の住所地の所轄税務署にその確定申告書を提出しなければいけません。
例えば12月6日に死亡した場合は、その死亡した年分の確定申告書についてその翌年4月6日、また死亡した日の年の前年分の確定申告書を提出していないで3月10日に死亡した場合は、その死亡した年分とその前年分の確定申告書について7月10日が提出期限となります。
(3)納付する所得税と住民税
①所有期間が5年超の場合
土地、建物やマンションを買い値よりも高く売却した場合や、買った値段が分からない(注)土地、建物やマンションを売却し、上記(1)または(2)に該当した場合で、その取得した日から売却した日の属する年の1月1日における所有期間が5年超であるものを売却したときは原則として、その売却による利益の15.315%の所得税および復興特別所得税を原則としてその申告する年の3月15日までに納付しなければいけ ません。
また、その売却した利益の5%の住民税が課され、その確定申告書を提出した年の6月から徴収される住民税として納付していただくこととなります。
②所有期間が5年以下の場合
その取得した日から売却した日の属する年の1月1日における所有期間が5年以下であるものを売却した場合には、その売却した利益の30.63%の所得税および復興特別所得税と9%の住民税となります。
(注)買った金額が分からない場合は、下記の「2.不動産の売却益」の「(2)土地や建物の購入金額や建築価額が不明の場合の取扱い」を参照されてください。
(4)給与収入または公的年金があるために申告不要となる場合
①給与収入がある場合
年間の給与収入が2千万円以下である日本に住所を有する個人が、次の(ア)または(イ)のいずれかに該当するときは、不動産の売却益があっても、確定申告書の提出は不要です。
ただし、3人以下で50%超の株式や出資を所有されているなどの同族会社の役員やこの役員の親族などが、この同族会社から給与のほかに貸付金の利子、不動産などの資産の貸付の対価を受領しているときは、上記(1)原則通り確定申告を要します。
(ア)その年中に1か所から源泉徴収が適用される給与を受け、その不動産の売却益を含めた、給与と退職金以外の所得が20万円以下であるとき。
(イ)その年中に2か所以上から源泉徴収が適用される給与を受け、次の(ウ)または(エ)に該当するとき。
(ウ)従たる給与支払者からの給与と、その不動産の売却益を含めた、給与と退職金以外の所得との合計額が20万円以下であるとき。
(エ)その年分の給与収入の合計額から150万円を差し引いた残額が、社会保険控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、障がい者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除および扶養控除の合計額以下で、かつ、その不動産の売却益を含めた、給与と退職金以外の所得との合計額が20万円以下であるとき。
②公的年金がある場合
その年中の老齢厚生年金や老齢基礎年金などの公的年金の収入が400万円以下で、その公的年金のすべてが源泉徴収の対象であり、その不動産の売却益を含めた、この公的年金以外の所得金額が20万円以下であるときは、不動産の売却益があっても、確定申告書の提出は不要です。
③医療費控除などを受けるために確定申告書を提出する場合
医療費控除や雑損控除などの適用を受けるために確定申告書を提出する場合には、たとえ上記(4)①または(4)②に該当したとしても、20万円以下の不動産売却益などを含めて申告書に記載しなければいけません。
なお、2020(令和2)年にお住まいの市区町村から①世帯主が受領した1人当たり10万円の特別定額給付金、②対象児童1人当たり1万円の子育て世帯臨時特別給付金、および③は、申告書に記載する必要はありません。非課税のためです。
(5)不動産を売却した後の税務署の対応
不動産を売却して所有者の変更が登記されますと、その登記完了の数か月後にその事実が税務署に通知されます。税務署は譲渡益があるかどうかは分かりませんので、はがき形式の「譲渡所得の申告についての連絡票」が、その売却した不動産の所有者に売却した日の属する年の翌年2月上旬までに郵送されます。
これに記入する事項は、①売却物件の所在地、②宅地などの種類、③居住用などの利用状況、④売却物件の購入年月日と購入金額、⑤売却した年月日と売却金額、⑥売却益があっても申告不要である理由、ならびに⑦売却した個人の現住所、氏名および電話番号です。
ただし、確定申告書を提出される場合は、この譲渡所得の申告についての連絡票を税務署に返送する必要はありません。
(6)罰則
①確定申告書を提出すべき場合で、提出すべき年の原則として4月16日以後に確定申告書を提出したときは、その申告により納付すべき税額の最低5%に相当する行政罰としての無申告加算税が課されます。根拠条文は国税通則法66条6項です。
②正当な理由がなくて確定申告書を提出すべき個人が、その申告期限までに確定申告書を提出しなかった場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。ただし、情状により、その刑が免除されます。
根拠条文は所得税法241条です。
2.不動産の売却益
(1)買った金額や建築した金額が分かる場合の不動産の売却益
①概算
不動産の売却益は、売却金額からその不動産の購入金額と仲介手数料などの不動産の売却に必要な支払い金額との合計額を控除した残額です。
すなわち、不動産の売却益
=不動産の売却金額
-不動産の購入金額や建築した金額
-仲介手数料などの不動産の売却に必要な支払い金額
②購入金額とほぼ同額で売却した場合
概算としては買った一戸建てやマンションをほぼ買った値段で売却できた場合は、所有期間に応じた建物の減価償却費だけ売却益となります。このため、その減価償却費が売買仲介料など売却に直接要した金額よりも大きければ、売却益となります。
減価償却費の概算は、購入金額のうち建物の金額または建物の新築金額×0.9×償却率×所有期間です。
償却率は、木造の非事業用0.031、マンションの非事業用0.015です。
所有期間の6か月未満の端数は切り捨て、6か月以上の端数は1年とします。
マンションの購入金額のうち建物部分の金額は、売買契約書に記載された消費税および地方消費税額に基づいて計算します。
③正確な不動産の売却益
=売却金額+受領した固定資産税の精算金(4月ごろ通知された固定資産税を所有期間の日割按分した金額)
-(土地の購入金額+土地の不動産取得税(0円もあり得ます。)+土地の登記の登録免許税+建物の購入金額または建築金額+建物の不動産取得税(0円もあり得ます。)+建物の登記の登録免許税-建物の減価償却費+その他の金額)
-(不動産業者に支払った仲介手数料(注)+売買契約書の印紙代+その他)
(注)通常の不動産業者に支払う仲介手数料は、(約定代金×3%+6万円)×108%(2019(令和元)年10月1日以後は110%)です。
(注1)土地売却に伴ってその上の建物を取り壊した場合で、土地の売却のために取り壊されたことが明らかであるときは、「建物の購入金額または建築金額+建物の不動産取得税(0円もあり得ます。)+建物の登記の登録免許税-建物の減価償却費」を不動産の売却益から控除できます。また、業者に支払った取り壊し費用も同様です。
(注2)遺産分割協議に基づいて不動産を相続する代償として支払った金額は、不動産の売却益から控除できません。
(注3)民法768条(民法749条および771条を含みます。)の財産分与、すなわち離婚による財産分与によって相手の不動産を自己に移転した場合は、その分与を受けたときにその時価で取得したことになります。
(2)土地や建物の購入金額や建築価額が不明の場合の取扱い
(1)概要 不動産の売却金額に5%を乗じて得た金額を売却金額から控除できます。
(2)詳細
①土地の購入金額が不明な場合
(イ)次のaからcのいずれかに該当する土地は、上記2.(1)②の(土地の購入金額+土地の不動産取得税(0円もあり得ます。)+土地の登記の登録免許税)に代えて、(土地の売却金額+受領した土地の固定資産税の精算金)×5%の金額を買った金額(取得費)とすることができます。
a 東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪および神戸に所在する土地で、平成29(2017)年1月から6月までに売却した場合の例では、昭和35(1960)年12月31日以前に取得した土地
b 東京区部、横浜、名古屋、京都、大阪および神戸以外に所在する土地で、平成29(2017)年1月から6月までに売却した場合の例では、昭和33(1958)年6月30日以前に取得した土地
c 登記事項証明書などで取得した日が明らかでない土地
(ロ)上記2.(2)(2)詳細①(イ)のaからcに該当しない土地(借地権を除きます。)につきましては、上記2.(2)(2)①の不動産の売却金額の5%で計算する以外に、他の方法によって算定した金額を売却した不動産の買った金額とするとすることもできます。
これにつきましては、ご依頼を受けた後に取得金額を証する書類がないことを確認後にご提案させていただくこととなります。
②建物の購入金額や建築金額が不明な場合は、(建物の売却金額+受領した建物の固定資産税の精算金)×5%の金額を上記2.(1)②の(建物の購入金額または建築金額+建物の不動産取得税(0円もあり得ます。)+建物の登記の登録免許税-建物の減価償却費)とすることができます。
(3)実際に購入した金額と異なる金額が税務上の購入金額となる場合
今回売却した不動産を購入する前後に不動産を売却し、その売却した不動産の確定申告で事業用資産の買い替え特例、居住用資産の買い替え特例、交換の特例その他の特例を適用した場合は、今回売却した不動産の購入金額が今回の譲渡益の計算で控除する購入金額とならず、以前売却したときの確定申告書に記載された金額(取得費といいます。)が売却益の計算で控除する金額となります。
(4)法令に従って申告することによって売却益から控除できる金額の例示
①相続した不動産をその相続開始の日から3年10カ月以内に売却した場合には、その売却した相続人が負担した相続税のうちその売却した不動産に対応する相続税を不動産の売却益から控除できます。
②以下の4.居住していた土地と建物の特例を参照されてください。
③以下の5.被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例を参照されてください。
買った金額が不明な土地のみを売却した場合の必要書類はこの行をクリックしてください。
3.上記1.確定申告書の提出による所得税等と住民税と2.不動産の売却益の補足事項
上記1.と2.の補足のご説明は次の(1) から(16)までの通りです。
(1)土地に含まれるもの
借地権の対象となっている土地、すなわち貸し地や底地、また借地権も土地に含まれます。
(2)売却に含まれるもの
借地権の設定の対価として、その借地権の対象となる土地の時価の2分の1の金額を超える金額を受領したことも売却に含まれます。
(3) 売却した土地、建物やマンションを相続によって取得した場合
①相続によって取得した場合には、その相続する前の所有者の取得日が取得した日となります。また、相続する前の所有者が購入した金額で取得したことに取り扱われます。
なお、売却した物件を購入した年の前後に売却した不動産があり、その前後に売却した不動産の確定申告で買換えの特例などを適用したときは、その確定申告書に記載した金額が、今回の売却した不動産の購入した金額として売却益を計算します。特に1991(平成3)年前後に売却と購入があった場合は、当時の確定申告書をご確認ください。
②民法924条の規定によって家庭裁判所に申述して限定承認した不動産を相続した場合には、その限定承認した時の時価によって売却したものと扱われます。
すなわち、限定承認によって相続された不動産など譲渡所得の基因となる資産があり、その不動産などの時価がその購入金額などよりも高く、その売却益が基礎控除などの所得控除の合計額を超える場合は、その限定承認した時にその時価によって売却されたものとしてその不動産などの売却益を計算して、そのお亡くなりになった日から4か月以内にそのお亡くなりになった個人の準確定申告書をそのお亡くなりになった個人の住所地を管轄する税務署に提出しなければいけません。
(4)外国に所在する不動産を売却した場合
日本に住所を有する個人が、外国に所在する不動産を売却し、売却益が生じたときは、原則として確定申告が必要です。
ただし、その個人が日本国籍でなく、かつ、過去10年以内に日本に住所または居所を有していた期間が合計で5年以下である場合で、その不動産の売却代金を日本に送金していないときは、確定申告は不要です。
なお、その売却益に対して外国でも課税されている場合は、外国税額控除の適用があります。
(5)外国人が日本に所在する不動産を売却した場合
日本に住所がなく、かつ、現在まで引き続いて1年以上居所がない個人、すなわち非居住者が日本にある不動産を売却した場合で、その譲渡益があるときは、原則として売却した日の属する年の翌年3月15日までに確定申告しなければいけません。
売却金額が1億円以下で、購入者またはそのその親族の居住の用に供するためのもの以外であるため源泉徴収された金額は、申告することによって調整されます。
非居住者にも居住していた不動産の3千万円までの非課税などは適用されます。しかし、所得控除は、雑損控除、寄付金控除および基礎控除だけです。
確定申告書の提出先は、恒久的施設を有さず、国内に住所および居所を有していて、その住所および居所を有しないこととなったときに、その親族などがその場所に引き続き居住していない場合は、売却した不動産の所在地(2以上ある場合は主たる不動産の所在地)を管轄する税務署です。
(6)手付金と残代金との間に12月31日がある場合の申告する年の選択
売却の契約を締結した日(手付金の受領日)の属する年と最終の決済日(残代金の受領日)の属する年とが異なるときは、いずれかの年のうち申告者が有利となる年分の所得として確定申告できます。
申告者の有利不利となるものには、国民健康保険料、後期高齢者医療保険料、介護保険料や申告者の保育園児に関する事項および売却した日の属する年の1月1日におけるその売却した不動産の所有期間が5年超となるかどうかなどがあります。また、平成29(2018)年以後の年分からは、売却した個人の所得やその配偶者の所得に応じて、配偶者控除の金額や配偶者特別控除の金額に差が生じます。
(7)不動産を売却後に出国する場合の申告期限
①納税管理人の届出をしない場合
確定申告書を提出すべき居住者(国内に住所を有し、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人)が、国内に住所および居所を有しないこととなるときは、その出国のときまでに確定申告書を提出しなければいけません。
②納税管理人の届出を行う場合
確定申告書を提出すべき居住者(国内に住所を有し、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人)が、国内に住所および居所を有しないこととなり、その出国のときまでに納税管理人の届出をしたときは、通常通り売却した日の属する年の翌年3月15日までに確定申告書を提出します。
(8)所得税および復興特別所得税の口座引き落とし
原則として3月15日までに納付すべき所得税および復興特別所得税の金額は、原則として3月15日までに預貯金口座振替依頼書を確定申告書に添付するか、または原則として3月15日までに預貯金口座振替依頼書を金融機関の窓口に提出して所定の手続きを行えば、申告した年の4月22日前後(平成28年分は平成29年4月20日(木))にこの依頼書に記入された口座から引き落とされます。なお、申告期限の翌日から引き落とされる日の前日までの利息に相当する金額は不要です。
預貯金口座振替依頼書は、平成○×年分 所得税及び復興特別所得税の確定申告書の手引きの後ろのページにあります。または国税税のホームページから印刷するか、税務署にも置いてあります。
(注)平成29(2017)年1月4日からクレジットカードで決済手数料を含む1千万円未満の不動産の売却による所得税および復興特別所得税を納付できます。この場合は1万円までは税抜き76円、以後1万円を超えるごとに税抜き76円の決済手数料が必要です。
(9)住民税の支払い
住民税の納付は、①6月末に一括払いする方法、②6月末、8月末、11月末および翌年1月末の年4回払いとする方法、③給与所得者の場合は、6月の給与から翌年5月までの給与から12分割して支払う方法のいずれかを選択できます。
①または②を選択する場合は、確定申告書の第2表の下段の住民税・事業税に関する事項の住民税の徴収方法の選択の欄の「自分で納付」の左に〇を付します。6月中旬までに住民税の納付書が郵送されますので、①または②の手続きをしてください。
なお、所得税の確定申告書を税務署に提出した場合には、市区町村に住民税の申告書を提出する必要はありません。
(10)財産分与の場合
民法768条(民法749条および771条を含みます。)の財産分与、すなわち離婚による財産分与によって自己の不動産を相手に移転した場合は、その分与をしたときにその時価で売却したこととなります。また、住んでいた不動産を分与した場合には、次の2の特例の適用が受けられます。
(11)共有の場合
①共有の場合には、持ち分に応じて各人の売却益を計算します。最終的には下記4の不動産の売却益に持ち分割合を乗じた金額が各人の売却益となるのが通常です。
②所得税および復興特別所得税の確定申告書の提出先は、共有者の各人ごとに共有者の各人の提出時の住所を所轄する税務署です。
③売却に関する書類は、各人ごとに確定申告書に添付します。 ただし、登記事項証明書などは、共有者が同じ税務署に提出するときは、一方に取得したそのものを添付し、他方にはそのコピーの余白に取得したそのものは一方に添付している旨を記載すれば、取得したそのものの提出は1部で済みます。
④共有地の分割
個人が共有地を持ち分に応じて分割、または土地の価額の比が持ち分の割合におおむね等しく分割した場合は、その分割による土地の売却はなかったものとなります。
(12)売却益から差し引ける控除項目がある場合
医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄付金控除(注)、雑損控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除や基礎控除の所得から差し引かれる金額の合計額が、給与所得や年金などの課税される所得の合計額を超える場合には、その超える金額を不動産の売却益から控除した残額に対して所得税および復興特別所得税と住民税が課されます。
(注)税額が算出される場合に、税額控除を受けられる寄付金であるときは、寄付金の税額控除とのいずれか有利な方を選択します。
(13)事業所得や不動産所得の計算上生じた損失との損益通算の取扱い
事業の損失の金額と不動産賃貸事業から生じた損失の金額は、不動産の売却益から差し引くことはできません。
(14)5年以下と5年超のいずれかに売却損がある場合の取扱い
不動産の売却益の計算で、所有期間が5年以下の部分の金額と所有期間が5年超の部分の金額がある場合で、そのいずれかが売却損となっているときは、両者を合算して譲渡益を計算します。
(15)土地と建物を一緒に売却し、建物の売却金額が区別されていない場合
土地と建物を一括して売却し、個人などに売却して売買契約書に消費税額が明記されていなかったりして、土地と建物のそれぞれの売却金額が区分できないときは、建物はその減価償却費控除後の残額で売却したものとして、通常は建物からは譲渡益が生じないように計算できます。
(16)消費税との関係
①個人が自営業や、事務所など住宅以外の不動産賃貸業を営み、消費税の課税事業者である場合で、自営業や不動産賃貸業の用に供していた建物を売却したときは、この建物の売却金額(事業割合に相当する金額)は、消費税の課税売上に該当します。簡易課税を選択している場合の建物の売却は、第4種事業となります。
②自営業や不動産賃貸業の用に供していた建物を売却した年が免税事業者である場合は、その売却した日の属する年の翌々年が課税事業者となるかどうかを判断する課税売上高にその建物の売却金額(事業割合に相当する金額)を含めます。
4.居住していた土地と建物の特例
居住していた土地と建物またはマンションを居住しなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却した場合には、その売却した年の翌年3月15日まで にその売却した土地と建物やマンションを所有していた個人の申告時の住所地を管轄する税務署に、所得税の確定申告書に所定の書類を添付して申告すれば、その売却益のうち3千万円までの 部分の金額は、所得税および復興特別所得税と住民税が課税されません。
ただし、住宅借入金等特別控除、いわゆるローン控除の適用を受けられる住宅に新たに居住する年とその前後2年の間、すなわちその居住する年の前々年分、前年分、居住年分、翌年分および翌々年分につきましは、上記の3千万円までの控除を受けた場合には、ローン控除を受けられるすべての期間にわたってローン控除を受けられません。
また、2020(令和2)年4月1日以後にこれまで居住していた不動産を売却した場合で、新たに購入した不動産にローン控除の適用を受けているときは、この新たに購入した不動産に居住した日の属する年の翌年、翌々年、及び翌々々年、すなわち、3年間は上記の3千万円控除の適用はありません。
従いまして、上記の3千万円までの控除によって受けられる利益と、ローン控除を受けられる全期間によるローン控除による利益とを比較して、いずれか有利な方を選択して適用することとなります。
居住用の買換特例との比較の概要は、この行をクリックしてください。
住んでいた土地と建物を売却した場合の必要書類はこの行をクリックしてください。
5.被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例
(1)適用できる要件
お亡くなりになった個人が所有し、お亡くなりになったときに居住(注)していた
①昭和56(1981)年5月31日以前に建築され、
②マンションのような区分所有建物でなく、
③お亡くなりになった個人以外に居住していた者がいなかった家屋
とその家屋の敷地(借地権を含みます。)を相続または遺贈によって取得した個人が、平成28 年4月1日から2023(令和5) 年12 月31 日までの間に、かつそのお亡くなりになった日から3年を経過する日の年の12月31日までに、売却金額が1億円以下で、次の④または⑤の売却をしたときは、その売却益から3千万円までを控除することができます。
ただし、そのお亡くなりになった時からその売却の時まで事業の用、貸付の用または居住の用に供されていたことがあるものには、適用はありません。
また、相続した不動産をその相続開始の日から3年10カ月以内に売却した場合で、その売却した相続人が負担した相続税のうちその売却した不動産に対応する相続税をその不動産の売却益から控除したときも、この適用はありません。
④地震に対する安全性の基準に適合する不動産(その個人がお亡くなりになった後の増築、改築、修繕または模様替えを含みます。)の売却
⑤そのお亡くなりになった個人が居住していた家屋の取り壊しなどを行い、その売却の時まで建物や構築物の敷地の用に供されていないその敷地の売却
(注)2019(令和元)年4月1日以後に譲渡した場合には、お亡くなりになった直前にそのお亡くなりになった個人が居住していなくても、養護老人ホームまたはサービス付き高齢者向け住宅などに入居または入所する前に介護保険法の要介護認定または要支援認定を受けており、お亡くなりになったときにこれらに入居または入所していたときは、これらに入居または入所する直前にその売却または取り壊した家屋に居住していたときを含みます。
被相続人の居住用財産を譲渡した場合の3千万円特別控除の必要書類は、この行をクリックしてください。
6.上記4と5のほかにも特例はあります。
(1)収用の場合の5千万円までの特別控除
(2)2020(令和2)年7月1日から2022(令和4)年12月31日までに個人が都市計画区域内にある5年超所有する低未利用土地を500万円以下で売却した場合の100万円の特別控除低未利用土地を売却した場合の特別控除
7.上記4から6の特別控除を受けた場合の配偶者控除などの適用の判定
(1)配偶者や扶養控除の対象としていた個人が不動産を売却し、その売却益から上記4から6の特別控除を受ける場合は、その特別控除を差し引く前の売却益に基づいて、配偶者控除や扶養控除の対象者に該当するか否かを判定します。
B 不動産を売却した場合の社会保障への影響
1.不動産の売却益による国民皆保険の保険料の増加の概要
(1)75歳以上の個人の後期高齢者医療保険料
後期高齢者医療保険料が、64万円の限度額に達していない場合は、不動産の売却益に都道府県ごとに定める保険料率を乗じて得られる金額だけ増加します。
(2)65歳以上の個人の介護保険料
65歳以上の介護療保険料は、市町村の条例に規定された限度額に達していない場合は、不動産の売却益に応じて、その条例に規定された区分ごとに定める金額に増加します。
(注)都道府県の国民健康保険に加入している個人のうち40歳以上65歳未満の介護保険料は国民健康保険料として徴収されます。
(3)給与所得者の健康保険料
給与所得を得ている個人で、全国健康保険協会または健康保険組合の被保険者または被扶養者は、不動産の売却益によって健康保険料は変わりません。
ただし、①不動産を売却したした日の属する年の翌年4月1日からその不動産を売却した日の属する年の翌々年3月31日までの間に75歳の誕生日の前日となるか、②65歳以上で後期高齢者医療保険の保険者から障がい状態の認定を受けるか、または③不動産を売却した日の属する年の翌年4月1日からその不動産を売却した日の属する年の翌々年3月30日までの間に退職し、任意継続被保険者の手続きを行わなかった場合は、①と②は上記(1)、③は次の(3)となります。(注)
(注)年の中途から国民健康保険または後期高齢者医療保険に加入した場合には、月割りで所得に応じた保険料を負担することとなります。例えば、平成30年に不動産の売却益が生じ、平成31年に平成30年分の確定申告書を提出し、平成32年3月30日に社会保険に加入していた会社を退職し、平成32年3月31日から都道府県市区町村の国民健康保険に加入した場合は、平成30年分の所得に基づいて計算される国民健康保険料の12分の1の保険料を平成32年3月分の国民健康保険料として納付することととなります。
(4)上記(1)と(3)に該当しない場合の国民健康保険料(税)
上記(1)と(2)に該当しない個人が加入している都道府県市区町村の国民健康保険料は、2020(令和2)年4月1日から2022(令和4)年3月31日までの1年間の限度額(40歳以上で99万円、40歳未満で83万円(注3))に達していない場合は、不動産の売却益(注1)に市区町村が定める保険料率(注2)を乗じて得られる金額だけ増加します。
(注1)横浜市では居住用の3千万円控除など特別控除後の売却益
(注2)横浜市では40歳以上が11.34%、40歳未満が9.21%
(注3)2022(令和4)年4月1日から3万円上がる見込みです。
ただし、同種の事業または業務に従事する個人が入れる国民健康保険組合の組合員に加入している場合で、国民健康保険組合の保険料の計算が所得以外に基づいて計算されているときは、不動産の売却益によって、保険料が増加しないこともあります。
2.扶養されている個人(被扶養者)の社会保険の取り扱い
給与所得者が加入する健康保険や厚生年金、いわゆる社会保険に加入されている個人の配偶者や扶養親族で、その社会保険に加入されている個人の被扶養者となっている配偶者や扶養親族が不動産を売却し、その売却益が106万円や130万円(60歳以上である者または障がい者に該当する場合は180万円)以上となっても、その社会保険の被扶養者は継続されます。不動産の売却所得は臨時所得であるためです。
(注)社会保険の加入者の勤務先での年末調整の留意事項
社会保険の加入者の配偶者や扶養親族の所得が、不動産の売却益と課税されるその他の所得の合計額が38万円を超える場合には、この社会保険の加入者は、その配偶者や扶養親族についての配偶者控除や扶養控除の適用を受けられません。また、この合計額が123万円を超える場合には、その配偶者につき配偶者特別控除の適用も受けられません。
3.医療機関での窓口での負担割合
(1)窓口での自己負担割合が3割
70歳以上の国民健康保険加入者または75歳以上の後期高齢者医療保険加入者で一定以上の所得と収入がある場合には、不動産の売却益を申告した年分の翌年8月1日から1年間の医療機関での窓口負担の割合が1割(平成26年4月1日以後に70歳に達した個人は、75歳未満までは2割)でなく3割となります。
(2)75歳以上の窓口での自己負担割合が2割
一定額以上の収入がある場合は、2022(令和4)年10月から2023(令和5)年3月までの間以後からは、75歳以上の後期高齢者医療保険の対象者が医療機関の窓口で支払う自己負担割合は、現行の1割負担でなくなり、2割負担とする閣議決定がされました。ただし、2割負担となった日から3年間は、1か月に増加する負担額が一定額以下となります。
4.65歳以上の個人の介護保険料の自宅買換えの減免
65歳以上の個人の介護保険料の計算につきましては、居住していた自宅を売却して所得税の確定申告で3千万円控除の適用を受けた場合であっても、この3千万円控除をする前の所得に基づいて計算します。
しかし、市区町村の議会が定める条例により、住所地の市区町村に申請することによって、介護保険料の減免を受けることができることがあります。
従いまして、介護保険料を計算する年の前年に64歳以上の個人が所有し、居住していた自宅を売却し、3千万円控除の適用を受け、新たに居住する自宅を購入した場合には、お住まいの市区町村の介護保険料を担当する部署にご確認ください。
なお、神奈川県横浜市の平成26年分のこの減免の適用要件と介護保険料の計算方法などは以下の通りです。
適用要件は、介護保険料を計算する年の前年中に居住していた自宅を売却し、新たに居住する自宅を購入した場合で、申請日に介護保険料の未納がない時などです。詳細は担当部署にご確認ください。
介護保険料は、次の(イ)または(ロ)の区分に応じて計算します。ただし、申請が遅くなり、減免後の介護保険料を超える金額を既に支払ってしまった場合には、その超える介護保険料の還付は受けられません。
(イ)売却した自宅の売却額が購入した自宅の購入金額以下の場合は、売却した自宅の売却益はなかったものとして介護保険料を計算します。
(ロ)売却した自宅の売却額が購入した自宅の購入金額を超える場合は、売却した自宅の売却益以外の給与所得控除後の給与、公的年金等控除額を控除後の公的年金等その他の所得に、売却した自宅の売却益と購入した自宅の購入金額との差額(0円以下は0円。)を加えた金額に基づいて介護保険料を計算します。
(注)特定の居住用の買換特例を適用する確定申告を行えば、不動産の売却益を0円または3千万円控除を適用した場合の売却益よりも少なくできることもあります。なお、所有者がお亡くなりになった後に誰も居住しないでその相続人が売却すると、その売却に対して3千万円控除などの居住用財産の特例が適用されません。また下記3.(1)の適用がないこともありますことにご留意ください。
居住用の3千万円控除と特定の居住用の買換特例の比較の概要は、この行をクリックしてください。
5.65歳以上の個人が受ける介護給付に対する自己負担が平成27年8月から2割となる場合
前年分の確定申告書に不動産の売却益を申告した個人で65歳以上である者が介護給付を受けた場合で、次の①の要件を満たすときは、その受けた介護給付の自己負担が本年平成27年(2015年)8月1日から翌年7月31日まっで2割となります。なお、8月1日後に世帯の人数に変更が生じた場合は、変更が生じた月の翌月から変更後の下記の(イ)または(ロ)に応じて計算します。
①65歳以上の個人の前年分の確定申告書に記載されている公的年金等控除後の年金や不動産の賃貸収入からその経費と青色申告特別控除額を差し引いた残額その他の所得に不動産の売却益を加算した合計額が160万円以上であり、
(イ)単身世帯の場合は、年金から介護保険料や後期高齢者医療保険料を差し引く前の年金収入に不動産の賃貸収入からその経費と青色申告特別控除額を差し引いた残額その他の所得に不動産の売却益を加算した合計額が280万円以上であるとき
(ロ)同一世帯に65歳以上の他の個人がいる場合は、この同一世帯に属する65歳以上のすべて者の年金から介護保険料や後期高齢者医療保険料を差し引く前の年金収入に不動産の賃貸収入からその経費と青色申告特別控除額を差し引いた残額その他の所得に不動産の売却益を加算した合計額が346万円以上であるとき。なお、配偶者と世帯を分離していても同一世帯として計算します。
6.障がい基礎年金の受給との関係
20歳前の障がいによって障がい基礎年金を受給している個人が扶養親族と配偶者がない場合で、不動産の売却益とその他の課税される所得との合計額が360万4千円を超えるときは、その売却した年の翌年8月からその翌々年7月までの子の加算額を除いた障がい基礎年金の半分が支給停止されます。
ただし、不動産の売却益とその他の課税される所得との合計額が462万円を超えるときは、その売却した年の翌年8月からその翌々年7月までの障がい基礎年金の全部が支給停止されます。
なお、障がい基礎年金の受給者に扶養親族または控除対象配偶者がいる場合は、これらの人数に38万円を乗じた金額、老人控除対象配偶者または老人扶養親族の人数に48万円を乗じた金額、特定扶養親族の人数に63万円を乗じた金額の合計額を上記の360万4千円または462万円に加算します。
7.不動産の売却損と国民健康保険料と後期高齢者医療保険料などとの関係
(1)売却した日の属する年の1月1日における所有期間が5年超の自己が居住していた不動産で所定の要件を満たした場合は、その不動産の売却損は、給与や年金など他の所得と損益通算され、その通算した後の金額に基づいて国民健康保険料、後期高齢者医療保険料や医療機関の窓口負担割合が決まります。
(2)上記(1)以外の不動産の売却損は、その売却した年の他の不動産の売却益と相殺できます。しかし、給与や年金などの不動産の売却以外の所得とは損益が通算できません。従いまして、上記(1)以外の不動産の売却損があったとしても、通常通りの計算となります。
土地や建物を売却した個人の税申告の税理士報酬もご参照ください。
税理士報酬の概算は、確定申告報酬の概算計算表をご覧ください。
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